遺言書の書き方とは?自分で書く方法や注意点も解説


相続に備えて、遺言書の書き方を具体的に知りたい方もいるのではないでしょうか。
遺言書の書き方は3種類ありますが、それぞれに特徴や形式が異なります。決められた形式に沿っていないと遺言が無効になったり、相続トラブルが発生したりする可能性があるため、注意が必要です。
この記事では、遺言書を作成するメリットや遺言の種類ごとの特徴を紹介します。あわせて、自筆証書遺言の書き方のポイントや落とし穴、遺言書作成における注意点も解説します。


INDEX
遺言書を書く3つのメリット
まずは、遺言書を書くメリットも理解しておきましょう。ここでは、遺言書を書くおもなメリットを3つ紹介します。
相続争いを防ぎやすくなる
1つ目のメリットは、遺言書に相続人と財産を明記しておくことで相続時の争いを防ぎやすくなることです。遺産分割事件は、年々件数が増えています。最高裁判所が公表している「司法統計年報(令和元年度)」によると、2019年の遺産分割事件の新受件数は1万5,842件ありました。
1955年の遺産分割事件の新受件数は2,661件のため、60年あまりで約6倍に増えていることがわかります。相続争いは、資産家だけのものと考える人もいるかもしれません。しかし、遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(資産の価格別)を見ると、遺産分割のトラブルのうち約77%は遺産価額が5,000万円以下の場合です。
この実情を見てもわかるとおり、多くの人に相続争いが起こり得ることから、遺言書の作成は重要です。
しかし、遺言書を作成しても、認知症などを疑われると遺言書が無効になるケースもあるので注意が必要です。遺言時の意思能力の有無などを問われた場合には、相続トラブルに発展する恐れもあります。
遺言者が健康なうちに、遺言書の作成を行っておくことが円満な相続につながると意識しておきましょう。
遺産分割協議が回避しやすくなる
遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、分割内容を話し合うことが必要です。一般的には、法定相続割合を遺産の分け方の目安にしますが、話し合って相続人同士が同意すれば、法定相続割合でなくても問題ありません。ただし、相続人同士で財産の分け方を協議してもうまく整わないこともあります。
例えば、遺言書を書くことで、子どもがいない夫婦が配偶者に全財産を遺したり、家を継ぐ子どもなど特定の相続人に財産を多く配分できる場合があります。
また、法定相続人以外のお世話になった人や、公共団体など相続人以外に自分の財産を受け取ってほしいと希望する意思を反映させる遺贈も可能です。
遺言書を作成すれば、このような遺産分割協議を回避し、特定の相続人に財産を多く配分することや血縁者以外に財産を遺贈できるメリットがあります。
相続税申告がスムーズにできる
遺言書を作成しておくと、相続税申告がスムーズに行えます。相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告・納税しなければなりません。相続税を納める必要があるのは、基礎控除額「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を上回る額の相続財産がある場合です。
遺言書がない場合、遺産分割協議がまとまらないまま期限を過ぎてしまい、延納となって利子税が加算されるなど相続人が不利益を被ることもあります。しかし、事前に遺言書を作成しておけば、相続税の申告にかかる手間や時間の省略につながるでしょう。
遺言書の書き方には3種類ある!
ひとくちに遺言書といっても、遺言書には3種類あり、それぞれに特徴および作成方法が異なるため、注意が必要です。ここからは、3種類の遺言書を説明します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者自身が遺言書の全文・日付・氏名を自筆し、押印する形式です。自分で手軽に作成できるうえ、費用がかからず、遺言書をどこに保管しても問題ありません。遺言書を作成するにあたり、相続人が遺産の内容を把握するための財産目録を作成する必要があります。
財産目録とは、遺言者のすべての資産や負債を種類・区分ごとに一覧にしたものです。財産目録は、自筆でなくパソコンなどで作成しても構いません。ただし、各ページに遺言者の署名と押印が必要です。
公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が口述した遺言内容を公証人が筆記・押印して遺言書を作成する形式です。遺言書の作成に際し、2人以上の証人の立会いが必要です。作成した遺言書原本は公証役場で保管します。公正証書遺言は専門家が作成するため、遺言書の内容に不備が生じる心配がありません。
ただし、手数料として公証人手数料や遺言手数料などがかかります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言書の内容を秘密にしたまま公証役場で遺言者自身の遺言であること、および遺言書の存在を保証してもらう形式です。署名と押印は、遺言者自身で行う必要がありますが、遺言書の本文はパソコンで作成したり、代筆を依頼したりしても構いません。なお、公証役場に持ち込む際は、2人以上の証人が必要です。
秘密証書遺言は、公証役場に遺言書を持ち込み証明してもらうための費用がかかります。公正証書の場合、遺産総額で手数料が異なりますが、秘密証書遺言は遺産総額が不明となるため、費用は定額で1万1,000円です。
自筆証書遺言には落とし穴もあるので気をつけよう
自筆証書遺言は、手軽な半面、細心の注意を払って作成しないと相続争いへと発展するケースがあります。
例えば、前述のとおり、遺言書作成時に遺言者本人に意思能力があると証明できなければなりません。遺言者が病気を患っており、自書能力などが問われると無効になる恐れもあります。
遺言の内容が遺留分を侵害していないかの注意も必要です。遺言書で自分の意思に基づき自由に財産分与や遺贈ができるとはいえ、遺留分を侵害すると相続トラブルにつながるリスクがあります。
遺言書作成で気をつけたい5つの注意点
ここからは、遺言書を作成するうえで注意しておきたい点をより具体的に説明します。
まずは相続税が発生するかおおよそ把握する(財産総額の把握)
まずは、遺言書を書く前に現状の財産に対する相続税評価額を算出することが大切です。
土地や建物などの不動産、上場株式や預貯金などの評価額を確認できれば、遺産分割にともなうトラブルを回避できるだけでなく、相続税にかかる金額も把握しやすくなります。
各財産の相続税評価額の合計が基礎控除額を下回ると、相続税の発生はありません。
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
例えば、法定相続人が1人の場合は3,600万円、2人の場合は4,200万円が基礎控除額です。相続が発生すると10ヵ月以内に相続税の申告・納税が必要となるため、事前に相続対策を講じておけば相続人のためにもよいでしょう。
仮に、基礎控除額を上回っても、生命保険を活用することで「生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)」などを適用できる場合もあります。
早めに財産総額を確認しておくことで事前の対策を立てやすくなるでしょう。
家庭裁判所で検認が必須
自筆証書遺言を作成した場合、相続時に相続人は遺言書を開封してはいけません。相続人は、家庭裁判所へ検認の申し立てが必要です(自筆証書遺言保管制度を利用している場合は除く)。
検認は、相続人に遺言書の存在と内容を明確に伝えることで、偽造や変造を防ぎます。
家事審判申立書や相続人全員の戸籍謄本の提出など、決められた手順に従った手続きが求められます。一方、公正証書で作成した場合は、検認が必要ありません。
これは、公証人や証人立会いのもと作成するため、遺言者の意思能力が担保されているためです。遺言書が無効になることも防げます。
遺留分を考慮しておく
遺言書の作成時には、相続人の遺留分も考慮しておきましょう。遺留分とは、民法によって決められている「一定の相続人がもらうことができる最低限の遺産取得分」のことです。配偶者や直系卑属(子ども・孫など)、直系尊属(親・祖父母など)などが遺留分の対象ですが、兄弟姉妹は遺留分の対象となりません。
遺留分を侵害してしまうと、相続人と遺贈相手のトラブルが発生する可能性があるため、注意が必要です。
共同の遺言書は作成できない
2人以上で同一の遺言書を作成することは、民法第975条で禁止されています。例えば、夫婦そろって子どもに対する相続を同じように希望していたとしても、共同名義で1つの遺言書を書くことはできません。一方で、夫婦がそれぞれで遺言書を作ることは可能です。
ただし、遺言内容に意見の相違などがあればトラブルのもととなる恐れもあります。夫婦で遺言書を書く場合には、事前に協議したうえで作成するのがよいでしょう。
遺言執行者の指定
遺言書のなかで、遺言執行者を指定しておくことも大切なポイントです。遺言執行者とは遺言内容を正確に実現するために必要な手続きをする人のことです。
遺言執行者の指定は、法律上義務づけられてはいませんが、遺言執行者がいなければ相続人が不動産の名義変更などすべての手続きをしなければなりません。相続人が多くいたり、遠方に住んでいたりする場合は必要書類を揃えるだけでも大変です。
事前に遺言執行者を指定しておくことで、遺言書に沿った各種の手続きがスムーズです。
相続人を遺言執行者に指定する場合は、年齢や経験などを踏まえ、将来、相続人が手続きできるかを考慮しておく必要があります。
また、相続人だけでなく、第三者でも遺言執行者になることは可能です。
個人ではなく、銀行などが遺言執行者になることもできます。例えば、取引銀行の遺言信託のサービスを利用すると以下のメリットがあるため、おすすめです。
- コンサルティングによる適切なアドバイスをもとに、公正証書遺言を作成できる
- 中立的な立場の金融機関が遺言執行者となることで相続手続もスムーズに行える
まとめ
遺言書には、「特定の相続人に財産を多く分配できる」「相続人以外の人へ遺贈ができる」「相続争いを防ぎやすい」などのメリットがあります。ただし、自筆証書遺言の場合は手軽に作成できる一方で、さまざまな注意点があります。遺言者の意思をしっかりと示すためには、公正証書遺言のほうが安心です。
遺言書作成の際に、遺言執行者を銀行に指定しておけば、遺言の執行が確実なだけでなくスムーズに行えます。相続や遺言書の書き方でお悩みの方は、ぜひ一度、遺言信託のサービスの利用を検討してみてはいかがでしょうか?
- ※当サイトの記事は執筆時点の税制、関係法令などに基づき記載して製作したものです。
今後税務の取り扱いなどが変わる場合もございますので、記載の内容、数値などは将来にわたって保証されるものではありません。
お金のこと











