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監修者プロフィール
伊谷 俊宜 /
介護 経営コンサルタント
親の介護が必要になる前にしておきたいこと
介護は突然始まることもあり、いざというときに慌てないためには事前の心構えや準備が必要です。親の介護が必要になる前にしておきたいことをご説明します。
1. 親の希望を聞いておく
親が元気なときに介護の話を持ち出すのは、心理的に抵抗があるかもしれません。しかし、介護が始まったらゆっくり話し合う余裕はないのが現実です。将来、介護が必要になった場合はどうしてほしいのか、親の希望を聞いておくことが大切です。
面と向かって話しづらいときは、エンディングノートを渡して書いてもらうのもよいでしょう。市販のエンディングノートにはさまざまな種類があります。介護に対する希望のほかに、葬儀に関する希望や資産についての情報を書き込むスペースがあるものも多く、これらも大切な情報になります。
2. 兄弟姉妹で話し合う
兄弟姉妹がいる場合は、親の介護にどう関われるのか、あらかじめ話し合っておきたいものです。ただし、いきなり「誰が担うのか」「いくら負担できるのか」という話から始めずに、親の介護についてどう考えているのか、お互いに知ることからスタートしましょう。
それぞれの気持ちを正直に話し、気持ちを共有します。その後、具体的に何ができるか、何ができないのかを確認します。介護の分担に「これが正解」という結論はありません。話し合いの中で、最適な方法を探っていきましょう。
3. 介護サービスについて
知っておく
介護に関するサービスは多種多様です。急に介護が必要になったときに、全容を把握するのは容易ではありません。介護保険サービスや民間のサービスにどのようなものがあるか、それぞれの概要や手続きを把握しておきましょう。
自治体の介護関連窓口には、介護保険に関する冊子が置いてあるはずです。自治体のサイトからダウンロードできる場合もあります。冊子を入手して、介護サービスの概要を理解しておきましょう。介護関連の総合窓口となる地域包括支援センターの連絡先も載っていますから、親が住んでいる自治体の冊子を入手するようにしましょう。
介護保険サービスや保険外サービスの概要については、こちらの記事も参考にしてください。
介護保険とは? 制度のしくみや利用できるサービスなどを分かりやすく解説
親の介護で陥りやすいトラブルとは
親の介護に伴い、起こりがちなトラブルについてご説明します。
ストレスによる介護うつ
「親のために」と頑張り過ぎて、介護疲れからうつになってしまうケースがあります。また、介護離職で社会から孤立した状態になり、より症状が悪化することも。その結果、介護をする人、介護をうける人双方にとってつらい状況に陥ってしまう可能性があります。
兄弟姉妹間のトラブル
親の介護は、仕事や育児で大変な時期に重なることも多いものです。職場で重責を担っていたり、子どもの受験が重なったりすることもあるでしょう。その結果、独身の兄弟に親の世話を任せきりにしたり、親の近くに住む姉妹に介護を押し付けたりということが起こりがちです。また、「長男だから」「長男の嫁だから」という昔からの風習や価値観の一方的な押し付けもトラブルのもとになります。
ケアプランと実際のニーズとの
ズレ
急に親の介護が始まると、親も子も不慣れなため、ケアマネジャーによるケアプランを受け入れるのが当たり前だと思いがちです。受け身の姿勢で要望を伝えずにいると、自分たちが望んでいる介護と齟齬が生じることがあります。
金銭面でのトラブル
介護サービスに必要なお金が足りない場合、兄弟姉妹で平等に分担するのが望ましいところですが、なかなかそうはいきません。長男など特定の人だけが負担したり、親と折り合いの悪かった人が金銭援助を拒否したりするケースもあるようです。金銭負担の大きかった人が相続時に取り分を主張するなど、先々のトラブルの原因にもなります。
また、親が認知症になったときなどは、介護費用を親の預金口座からスムーズに引き出せず、家族による費用の立て替えが必要となることもあります。介護費用と偽り、子が親の資産を使い込んでしまうケースもあるようです。
親の介護問題を
解決するには
介護に関するトラブルはできる限り避けたいもの。問題を解決する方法や、事前に回避する方法を知っておきましょう。
1. 「介護者の会」などに参加して、介護うつに陥らないように
する
各自治体は、介護中の家族をサポートする「介護者の会」「家族の会」といった事業を行っています。介護者や要介護者が悩みを抱え込まないように、同じ立場で話し合い、情報交換を行う集まりです。まずは、そのような会に顔を出してみましょう。悩みを話すだけでも気持ちが晴れ、会話の中から解決へのヒントが得られることもあるはずです。
2. 親族間で話し合いをして、役割分担を決める
親に対する思い入れは、兄弟姉妹間で意外と温度差があるものです。親の介護について、お互いの本音をできるだけ正直に話しましょう。兄弟姉妹だけの話し合いではもめそうな場合、おじおばなど関係が深く、信頼できる人がいれば間に入ってもらうことをおすすめします。
兄弟姉妹間で具体的にできること、できないことを確認したら、キーパーソンとなる人(主介護者)を決めます。主介護者がケアマネジャーとのやり取りや、実際の手続きなどを担当します。主介護者の負担を少しでも軽減するために、ほかの兄弟姉妹は金銭的な援助をするなど、できる限りのことをしましょう。
3. 地域包括支援センターに相談して、納得のいくケアプランに
する
地域包括支援センターは、市区町村が設置している福祉専門の窓口です。高齢者保健福祉の専門職員がおり、資格を持ったスタッフに無料で相談できます。介護サービスに関する不明点や、親が受けられるサービスについて、受け身にならず積極的に相談してみましょう。介護の負担を減らしたい場合は、デイサービスや訪問介護サービスの利用のほか、介護施設への入居などを検討する道もあります。
4. 介護費用の負担を軽減できる制度を利用して、金銭負担を
減らす
金銭面の負担をカバーできる制度があります。例えば、医療費控除、介護保険の負担限度額認定制度、高額介護サービス費制度、自治体の助成制度などを利用して負担を軽減しましょう。
親の介護費用は、まず本人の資産から出し、足りない部分があれば子どもが援助するという形が理想です。ただし、親が認知症などで自分のお金を銀行から引き出せなくなることも考えられます。介護が始まる前の元気なうちに、任意後見制度や、銀行の信託商品や代理人機能付き商品などの活用を検討してみることも対策のひとつです。親が自分でお金の管理ができなくなったときに、子どもが親の代わりに介護費を引き出せるようにしておくと、資金を立て替える負担を軽減することができ安心です。
介護・認知症対策の資産承継信託について、詳しくはこちらをご覧ください。
人生100年を支える信託。次の世代への引継ぎをしっかり準備|埼玉りそな銀行
介護サービスを
利用する方法
実際に介護サービスを利用する際の流れについて知っておきましょう。
- 1.要介護認定を受けるために、親の居住地の市区町村にある高齢者福祉窓口か、地域包括支援センターに申請を行います。
- 2.市区町村の職員や委託を受けたケアマネジャーなどが自宅を訪問し、本人の心身の状態や日常生活の様子などについて聞き取り調査を行います。
- 3.市区町村の依頼により、かかりつけ医が主治医意見書を作成します。
- 4.聞き取り調査の結果とかかりつけ医の意見書を基に、一次判定を行います。次に、保健・医療・福祉の専門家が二次判定を行います。
- 5.「要支援1・2」「要介護1~5」「非該当(自立)」のいずれかの判定が出されます。結果は通常、申請日から30日以内に送付されます。
- 6.介護サービスの利用計画書(ケアプラン)を作成します。通常はケアマネジャーが利用者本人や家族と相談しながら、プランを作成します。
- 7.ケアプランに基づいたサービスを利用開始します
介護サービスの利用の流れについては、こちらの記事も参考にしてください。
介護保険とは? 制度のしくみや利用できるサービスなどを分かりやすく解説
まとめ
親の介護を続ける上で大切なのは、介護する側が心身共にストレスを抱え込まないこと。困ったときのためにあらかじめ相談できる窓口を知っておくことも大切です。また、いざというときは一人で悩まず、自治体の相談窓口に相談したり、兄弟姉妹や親族で助け合ったり、介護サービスを利用して負担を減らしましょう。サービスの内容や利用できる施設については、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると詳しく教えてくれますから、積極的に利用しましょう。