埼玉の森に育つ“西川材”の魅力
地元産の木材で住宅やサウナ、木製家具を作る!~フォレスト西川(飯能市)の取り組み
「家を建てるとき、地元で育った木を使うと気候風土になれている関係もあり家が長持ちするという話を聞いたことがあります。また生育年数が50~70年の木を使えばその倍、100年以上住めると言う話もあります」と話すのは、フォレスト西川の新井銀平さん。
フォレスト西川は、地元・埼玉県南西部で育つ“西川材”の魅力を広め、地場の木材産業を盛り上げるために設立された会社です。現在、西川材をメインに活用して、木造住宅の構造材や壁材、建具、家具などを販売・製造しています。
フォレスト西川の工場をたずね、代表取締役社長の新井さんと専務取締役の町田一敏さんに西川材の歴史や特徴、魅力を聞いてきました。
INDEX
西川材をご存じですか?
西川材と聞いて、どこの産地の木材なのか知らなかったという人も多いのではないでしょうか。名前の由来を含め、知る人ぞ知る優良材“西川材”について詳しく紹介します。
西川材とは飯能市や日高市などで育つ杉や檜
「埼玉県の南西部には実は西川という地名はありません。国内の有名木材のブランド名はだいたいが地名が多いと思いますが、地名でないのは珍しいと思う」と新井さん。
では、なぜ地名と関係ない西川材という名前で呼ばれるようになったのでしょうか。歴史を辿ると起源は江戸時代にあるようです。
「江戸の大火のあと街を復興するときに近隣から材料を集めたんですね。当時は木材運搬手段が川だったので、この地域で切り出した杉や檜を筏に組んで、川を下って江戸(東京)に運んでいました。東京に集まった木材の中でも特にこの地域のものが良質で評判になり、優良材として認知されるようになりました。名前の由来ですが、東京から見て西の川から流れてくるということで西川材と呼ばれるようになったんです」
現在の地理でいうと、埼玉県の南西部に流れる入間川、高麗川、越辺川に隣接する森林地帯で育った杉や檜が西川材です。3つの川はいずれも荒川の支流です。これらの川を通じて埼玉で育った木が運ばれ、江戸時代からずっと住宅用木材として重宝されてきました。このエピソードからも、西川材はとても歴史のある木だとわかります。
なお、西川材の生産地となる森林地帯は飯能市、日高市、毛呂山町、越生町にまたがっており、今では西川材にちなんで「西川林業地」と呼ばれているそうです。
西川材が住宅用として優れている理由
「この地域の木材は昔からよく手入れされてきています。住宅に使われる材料で特に化粧材(見える材料)は、早いうちから枝落としをしていく。そのため節が出にくくて、柱や梁に使うのにいい材料になるんです」
西川材には優れている点がたくさんありますが、新井さんはまず、人の手でよく手入れされてきた点を挙げます。
また、この地域は秩父古生層からなる褐色森林土が大部分で、気温は平均12~14℃、降雪は年に3、4回と比較的温暖なため、杉や檜の生育環境に適していると言えるそうです。
色つやが良く、強度も高い点は数値でも証明されていると新井さん。
「木材の強度の目安となる数値をヤング係数っていうんですけど、杉のヤング係数は全国平均でE70のところ、西川材は個体差もあるが平均 E80~E90」だそうで、西川材の強度がいかに高いかを解説してくれました。
流通が発達した現代では、全国各地から、あるいは海外からも木材の輸入が簡単にできます。安く、大量に仕入れられる木材が重宝される時代が長く続きましたが、2020東京オリンピックやウッドショックなどをきっかけに国産材が注目されています。「弊社では昔から地域循環を考えて地域の材料を使おうと言ってきた」と新井さんは強調します。
新井さん曰く「強度や素材の良さも重要ですが弊社として一番伝えたい事は身近に木が豊富にあるので、その木材をより良く地域循環させ皆様に使ってもらえればと思っています。また家を作るときには是非、山に遊びに来ていただき色々な体験・話を聞いてもらいたいと思います」
西川材の魅力を伝えるために設立されたフォレスト西川
フォレスト西川は、西川材を扱っていた製材所など5社の協同組合という形で1993年に立ち上がったのが始まり。
当時、後継者不足に悩む製材所も多く、「西川材の魅力を地域の皆さんにもっと知ってもらうためにも、地域の製材所がまとまって動いて、埼玉の木材業をもっと盛り上げていこう!という強い意志のもとできた会社なんです」と新井さん、町田さんは設立の背景を語ります。
30年前には少なかった機械による木材加工(プレカット)をメインに業務を広げていき、2016年に株式会社に組織変更して今に至ります。今では、構造材のプレカットほか、集成材、壁材、床材、建具、造作材、木製家具など西川材を活用した製品を幅広く扱い、「西川材情報発信基地」として内外に西川材の魅力を伝えています。
フォレスト西川の芦苅場工場に行ってきました!
ここからは、工場で木材がどのように加工されるのか、また、フォレスト西川が力を入れている環境への取り組み例を紹介します。
西川材のプレカット風景
芦苅場工場に足を踏み入れると、たちまち木のいい香りに包まれます。
この工場では、木造住宅(木造軸組工法)に使う柱や梁などの構造材を一棟単位で製作できるプレカットシステムを取り入れ、西川材をメインとした構造材のプレカットを行っています。
「従来は木材同士を結合するための継手や仕口の加工は、大工さんがノミなどの工具を使って手作業で行っていました。そのため、一棟分の材料がそろうのに約3週間~1カ月かかっていた。それが、プレカットの機械を使うと一棟分の加工が約1~2日でできます」と新井さん。
芦苅場工場にはプレカットのためのさまざまな機械が並んでいます。機械は全てコンピューターで制御されており、事務所で建築士が製作した平面図や立面図のデータを取り込むと、切削や継手、仕口の加工、木材への印字などを自動で行います。
事務所での設計風景
機械によってカットされた継手や仕口
しかし、全てが自動化されているわけではありません。「機械では対応できない継手や仕口の加工があり、そういった細かいカットは、職人として現場経験を積んできた熟練の社員が手作業で加工しています」と町田さん。
機械で加工された構造材も、熟練社員が常にそばで仕上がりをチェックしています。
伝統の技術と先進のプレカット(機械加工)の組み合わせにより、良質な構造材が生まれ、高品質の住宅へとつながることがよくわかりました。
特別に見せてもらいました!釘や金具を使わず木材同士をどうやって組み合わせる?
環境に配慮したさまざまな取り組み
フォレスト西川では、木材の乾燥に機械を極力使わず天然乾燥の西川材を主に使っています。広い土場に桟積した材木を置き自然の力で半年から1年乾燥させ、木の特徴をしっかり残す方法で乾燥させています。その理由としても新井さんは「今は大きな乾燥窯にて高温で乾燥させるのが主流です。でも、そうすると木が本来持っている色味、ツヤ、油が 抜けてしまう。なるべく皆様に本来の木の良さを知っていただきたい、またどれだけ違うかを実感していただきたいと思っています。しかし機械乾燥を使うことにより強度は上がりますし、寸法安定性も上がります。適材適所踏まえ弊社としてもそれぞれの良さ・意味をしっかり皆様にお伝えし木の魅力を発信しています」
天然乾燥と機械乾燥、それぞれの木材を見せてもらいましたが、高温で茶色っぽく変色した機械乾燥の木材 に比べ、天然乾燥の木材は、木が持つ本来の風合いが残っていてやわらかい手触りでした。
「機械での乾燥に比べると天然乾燥では曲がりやねじれは出やすいですが、うちには熟練の職人がいます。木の状態を確認しながら細かく調整するので曲がりなどの不具合はもちろんありません。量産体制に持っていくのではなく、木の風合いを生かすことに付加価値をつけて、そこはかなりこだわってやっています。それができるのが西川材の強みでもあります」
天井に張り巡らされた配管
屋外の木くずを集めたサイロなど
木材を加工するときに出る大量の木くずについても、環境に配慮した取り組みがなされています。
町田さんによると「木くずは工場の天井を通る配管を通して屋外に集められます。それらは、紙の原料になったり、木質ペレットの原料になったり、牛や豚などの寝床として酪農家が活用したりしています。これは昨日今日始まったことではありません。木材関連の業界はもともと植林も含めSDGsに積極的に取り組んできました」と胸を張ります。
地元産の西川材で暮らしを豊かに
フォレスト西川では木造住宅をはじめ、机や家具、木製おもちゃなど西川材の良さを生かしたさまざまな製品を作り出しています。ここでは身近にある西川材を紹介していきましょう。
西川材を使ったおしゃれな建築物
飯能市には、西川材の良さを生かした建築物があるのをご存じですか?
商工会議所や埼玉りそな銀行の建物には、実は西川材が使われていてコンクリート建築にはない温かみを感じる造りになっています。
埼玉りそな銀行飯能支店の外観
「昔は柱が見える家造り(真壁)が主流でした。でも、最近の建築は柱が見えない(大壁)が主流です。木が見えるから節がないものが好まれた時代から、木が見えないなら強度が担保できて安価なものが好まれるようになった。日本は国土の森林面積が約70%という森林大国にも関わらず、木材の自給率は約40%にとどまっているのが現状、今まで先代の方たちが細かく丁寧に山の手入れをして育ててきた国産材をもう一度見直し皆さんに知ってもらいたい」と新井さん。でも、最近は木の良さを生かした家造りを求める人も増えているそうで、「柱や梁に使う木を選ぶためにわざわざ製材所や林業地を訪れる方もいます」
また、西川材には「立て木」と呼ばれる西川林業地ならではの特徴もあります。これは、生育した木を伐り出す際に優良木を10~15本程度残して100~200年もの長期にわたって保存するものです。そのため、この地域には直径が70cm以上の大径木が多数残っており、神社などで大きな柱を必要とする際などによく声がかかるそうです。
最近では「川越氷川神社の氷川会館を建て替えたときに、西川材を弊社でプレカットしています。身近なところで使われている西川材をぜひ、見てみてください」と新井さん。
サウナや家具、木製のおもちゃなど住宅以外にも活用
もう一つある阿須工場も訪ねました。ここでは事務所の建物や建具に西川材を使用しており、ダイニングテーブルや椅子、木製おもちゃ、サウナなども展示され、モデルハウスの役割も果たしています。
特に目を引いたのが、樽型のバレルサウナです。中に入ってみると、一瞬で木の香りに包まれます。サウナブームの今、全国から問い合わせがあるそうです。杉製と檜製があり、キットで販売しているので興味のある方は問い合わせてみてはいかがですか。
西川材で作られたバレルサウナ
西川材で作ったダイニングテーブルや椅子、本棚、木製おもちゃも魅力的です。シンプルだけれど温もりがあり、使い込めば使い込むほど愛着も湧いてきます。テーブルや椅子などの木製家具はオーダーメイドで自分好みのものを作ってもらうこともできます。
西川材で作られた木製のおままごとセット
さらに、フォレスト西川では保育園や幼稚園を対象に「木育」を提案する活動にも取り組んでいます。
「木を活用することは森や山を活性化させ、生活に欠かせない水や空気を守ることにもつながっていきます。子どもたちが木の温もりや良さを身近で感じられるように、保育園や幼稚園に木製玩具や遊具をレンタルしたり、木工教室や木材関連の講義を開催したりしています。保育園の子どもさんたちがバス一台で伐採見学に来ることもあるんですよ」と町田さんは笑顔で話します。
西川材を使った今後のプロジェクト
木材の活用は住宅や家具にとどまらず、ビルなどの非住宅分野にも広がってきています。木材を使うことで地球温暖化対策に貢献できるからです。新井さんは「飯能市にある商工会議所の建物もそうですが、今まではRC(鉄筋コンクリート)で建設されていたものでも、低層二階建て、三階建てぐらいまでは木造で作るケースも増えてきました。西川材では、大手ゼネコン様が建設された、横浜市中区に建てた 11 階建ての木造ビルにも材料を採用していただきました。今後は住宅だけでなく、非住宅需要の新規開拓にも力を入れていきたいですね」と話します。
フォレスト西川では、国や地方自治体が推進する脱炭素、SDGsの取り組みにも積極的に関わっています。例えば、港区が進める「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」。これは、港区の公共施設や民間の建築物に木材の使用を促し、都市と地方自治体が連携して地球温暖化防止を目指す事業です。港区には山がないため、林業が盛んな地方自治体と提携しようというもので、港区と提携している飯能市を通して関わっているそうです。
「人々の消費スタイルはモノ消費からコト消費へ、最近はイミ消費へと変化してきました。イミ消費とは、商品を通じて社会や環境に貢献する消費行動を指します。家造りを例に挙げると、家を建てたいから、住宅展示場に行こう!でもいいのですが…、地元の山に行って木を見ようと思ってほしい。今までも実際に山の伐採風景を見学してもらって木の良さを間近で感じてもらったり、製材所・プレカット工場を見てもらったりしています。年に 何組もご案内しているので、地域資源や国産材、ナチュラルな家づくりをお考えの方はぜひお問い合わせください」
株式会社 フォレスト西川(外部サイトへのリンク)
まとめ
飯能市や日高市など埼玉県南西部の森林地帯で育つ西川材は、江戸時代から良質の木材として親しまれてきました。西川材の魅力を広め、林業を盛り上げるために設立されたフォレスト西川では、「西川材情報発信基地」として木材加工だけでなく、さまざまな取り組みを行っています。
長い年月をかけて育つ木は、家の材料として優れているだけでなく、環境を支え、自然を支え、そこに暮らす人々を支える貴重な財産です。木を身近に感じてみたくなったら、芦苅場工場や阿須工場を訪ねてみてはいかがですか。
- 2023/09/22更新