「おいしく、安心な食」のために追求してきた
“オーガニック=有機”&“SDGs”~有機ドライフルーツ・ナッツから有機蒸溜酒まで!
広がる株式会社ノヴァ(北本市)の取り組み~
株式会社ノヴァの有機ドライフルーツは「高品質で、とにかくおいしい!」と評判です。同社は、理念としている「おいしく、安心な食」の実現のため、「オーガニック=有機であること」にこだわり、世界の生産者と「畑の顔が見える関係」を大切にしてきました。
そんな同社が近年は、本社を置く埼玉県北本市で有機農業や有機蒸溜酒づくりにも取り組んでいます。
研究者気質で自らを“おこもり社長”と称する代表取締役社長のブッシュ一木さんに、“オーガニック=有機”に対するビジョンや地域への思い、今後の展望を聞きました。
INDEX
天然酵母パンの製造販売業から有機食品の輸入・販売業へ移行
天然酵母を使ったベーカリーとして創業したノヴァが、なぜ有機ドライフルーツやナッツなどを主力事業とするようになったのか。そのきっかけから紐解いていきましょう。
きっかけは酵母の原料となる有機ドライフルーツ
ノヴァは国産小麦の全粒粉と天然酵母を使った主食になる製パン業として、1985年にブッシュさんの父親がスタートした会社です。
ドライフルーツというと、おやつにそのまま食べたり、パンやパウンドケーキなどに入れたりするイメージを持っている人が多いかもしれません。実は、天然酵母パンにおいてドライフルーツはパンを発酵させる酵母の原料にもなるもので、自家製酵母を使うベーカリーにとっては欠かせないものです。
創業当時からノヴァでは「健康で安全な食のあり方を追求する」を理念としていました。そのため、酵母の原料となる有機ドライフルーツも自ら厳選して仕入れようと、世界各地の生産者をたずねるようになったのだとか。
そのなかで、信頼できる有機生産者と出会えたことで、ドライフルーツやナッツの輸入も行うようになったそうです。
現在は、パンの製造販売業は行わず、有機ドライフルーツや有機ナッツなど有機食品の輸入販売を主力事業としています。
社長になる前は天然酵母の担当も!
ブッシュさんは今から24年前、21歳のとき同社に入社し、2012年に社長に就任しました。
「それまでは製造現場で有機ドライフルーツやナッツを袋詰めしたり、世界各地の生産地を訪ねたり、経理や受注の仕事などあらゆる部署を担当して経験を重ねました」とブッシュさん。
天然酵母の輸入を担当していたときは、もともとの研究者気質が顔をのぞかせ、どのようにしたらうまく酵母を発酵させられるか、さまざまな実験を試みたといいます。なぜなら、研究して得られた情報をお客さまに伝えて役立ててもらいたかったから。
「私たちのお客さまであるベーカリーのすべてが、発酵のための高価な機械に投資できるわけではありません。自家製酵母をつくるには瓶の中にレーズンと水を入れ、ある程度温めながら毎日1回か2回、空気を入れてシャカシャカ振るんですね。4日ぐらい経つとレーズンの酵母が活性化してきて、天然酵母のもとができます。お客さまの環境によって出来上がりは違ってくるので、どうやったらご自宅でうまく発酵させられるのか、例えばこたつの中に入れるなど、なるべく家庭でやりやすい方法を試しました」と当時を振り返ります。
お客さまにより良い情報を提供するための努力を惜しまなかったブッシュさんは、「おいしく、安心な食」を届けるために、生産者との交渉も粘り強く行ってきました。
“オーガニックだから”という固定観念をなくすための挑戦
そもそも「オーガニック=有機」とはどのような商品を指すのでしょうか。ブッシュさんがオーガニックに対する固定観念を払拭するため、また、日本でオーガニックを広めるため行ってきた努力を紹介します。
生産者の信念を理解したうえでの改善要求
有機農業の推進に関する法律(有機農業推進法)では有機農産物を生産する「有機農業」について以下のように定義しています。
「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう」(※1)
また、食品の国際基準を作る組織としてFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が設立したコーデックス委員会では、「有機農業は、生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健全性を促進し強化する全体的な生産管理システムである」(※2)と規定しています。
日本には有機JAS法があり、有機性が認められた農産物や加工食品、畜産物などの食品に対しては認証制度を設けています。農林水産省では有機表示について「有機食品のJASに適合した生産が行われていることを登録認証機関が検査し、その結果、認証された事業者のみが有機JASマークを貼ることができる」(※3)としています。
海外から輸入する有機食品についても、マークを表示したり「有機」「オーガニック」と名乗ったりするためには、日本の有機JAS規格の認証を受ける必要があります。ノヴァでは2001年に有機JAS法の製造業者認定、2002年に輸入業者認定を取得しています。しかし、ブッシュさんはそれだけに満足せず、さらなる高みを目指しました。
「一般的には当時、虫が入っていても見た目が悪くてもあまりおいしくなくても、“有機だから、オーガニックだからしょうがない”というイメージがありました。オーガニック市場だけを相手にするならそれでも問題ないのでしょうが、私はオーガニックをあまり意識していない層にも販路を広げていきたかったんです」
当時、会社でクレーム対応をするなかで、ブッシュさんは強く思ったそうです。
「日本の市場に受け入れられるためには、“オーガニックだからしょうがない”という固定観念を払拭しなければ…。生産者とともに、おいしくて、虫や異物などの混入がない、高品質な有機食品を目指さなければ…」
ブッシュさんによると、トルコなど海外の生産者は信念を持って有機農業に取り組んでいる人が多く、品質向上のためであっても改善案はなかなか受け入れてもらえなかったそうです。しかし、「私はあきらめずに毎年訪問して粘り強く交渉しました」と語ります。どんな交渉をしたのか、次で紹介するさまざまな試みが影響して、生産者の考え方も徐々に良い方向へ変化していったといいます。
- ※1.引用:有機農業の推進に関する法律 (定義)第二条より(外部サイトへのリンク)
- ※2.引用:有機的に生産される食品の生産、加工、表示及び販売に係るガイドライン(日本語版コーデックス規格)より(外部サイトへのリンク)
- ※3.引用:有機食品の検査認証制度(農林水産省)より(外部サイトへのリンク)
21年間生産者と交流するなかで見えてきた新しい“オーガニック=有機”
ブッシュさんが取り組んだことの一つに、ドライフルーツに混入した虫を手作業で一つ一つ取り除いていく作業がありました。
「いちじくは性質上、花粉を運ぶ虫が実の中に残ることがあるんですね。私は何とかそれを改善したくて、日本で袋詰めする前にいちじく一つ一つを検品して、虫を取り除く方法を考案しました」
ブッシュさんは自社内で実践するにとどまらず、その方法を海外の生産者や加工業者にも伝え、品質向上のために積極的な働きかけを行ってきました。
「父親世代の生産者はなかなか改善に動いてくれませんでした。でも、長年にわたる交流のなかで購入量を増やして関係を深めることで、子ども世代が品質改善のために動いてくれるようになりました」
また、グレードの良いものだけを買い付ける体制を整えるなど、おいしい有機農産物を手に入れるためのさまざまな工夫もしてきました。これらは一朝一夕で成し遂げられたわけではありません。21年間に渡って海外の生産者、加工業者と誠実に向き合ってきたからこそ実現できたことといえるでしょう。
さまざまな努力を重ねた結果、生産地での品質が向上し、オーガニックのイメージをも変えることに成功したのです。「オーガニックだからしょうがない」ではなく、「オーガニックだから安心でおいしい」というイメージへと。
社長になった今もクレーム対応を続けている理由
ブッシュさんは入社以来24年間ずっとクレーム対応を続けています。それは社長になった今も変わりません。
その理由について、「クレームに対応することで会社や商品が抱える問題点が見えてきます。そのおかげでいち早く問題を理解できますし、改善に着手できます。クレームの電話には私が直接対応しますが、誠実に対応することで結果的にノヴァのファンになってくださる方も多いんです」と語ります。
また、営業部門をあえて設けていないのもノヴァの特徴といえます。ブッシュさんは「クレーム対応をすることで把握できる商品特性もある」といい、社長自ら直接話すことで、「お客さまにいちばん近い営業部門の役割」も果たしているといいます。
安心・安全な食を届けるために行っているさまざまな取り組み
ノヴァでは素材そのもののおいしさを引き出すため、砂糖を加えずに乾燥させたり、オイルコーティングを行わなかったり、さまざまな工夫をしています。それは、商品を梱包する袋にも及んでいます。
「お客さまが封を開けるまでは、私が生産者から買い付けたままのおいしさを維持したい」と語るブッシュさんは、ドライフルーツやナッツを入れる袋にもこだわっています。
「防湿の面からはアルミパウチ袋がいいのですが、中が見えず環境への負荷も懸念されています。そのため通常は中が見えて防湿性のある2層の袋を使います。ただ、水は通さないけれども酸素は通すので酸化しやすい。そこで私はいろいろ研究して3層の袋を作成しました。商品の賞味期限は6カ月ですが袋の性能上は14か月の品質保証が可能という袋です。今はそれを使用しています」
そのほか、従業員の誰もが安心して商品を作れるように社内ルールや環境づくり、情報共有の徹底、業務の見える化など働きやすいシステムづくりにも力を入れているそうです。
そしてSDGsへ!ロスを減らしたいという思いから始まった有機蒸溜酒づくり
ここからは、4年ほど前から着手している有機蒸溜酒づくりや有機野菜の栽培について詳しく聞きました。
北本のトマトや自ら作った農産物も活用
ノヴァが有機蒸溜酒づくりを始めたのはロスを減らしたいという思いからでした。“オーガニックだから”という固定観念をなくすためのさまざまな取り組みによって、国内で検品時にはじかれる有機ドライフルーツ、有機ナッツは15%から5%へと減少しました。
ブッシュさんにはそれをさらに減らしたいという思いがありました。そんなときに、パンづくりで酵母を起こす際に利用する“発酵”をヒントに生まれたのが、有機蒸溜酒(有機ジャパニーズドライスピリッツ)のアイデアです。
原酒の原材料となるのは有機ドライフルーツと有機ナッツ、有機黒糖のみ。ここに品質は最高なのに、見た目などで検品時にはじかれるドライフルーツとナッツを含めることでロスを有効活用できます。
当初はブッシュさん自らが溶接して蒸溜器を造り、埼玉県のプロフェッショナル人材事業を通じて採用した杜氏経験のある社員と研究を重ねました。同時に蒸溜酒の香りづけ(ボタニカル)に使う、梅やあんず、山椒、くろもじ、ふきのとうなどの有機栽培も開始しました。
2021年には酒類製造免許を取得。研究の過程で原酒醸造→原酒蒸溜→ボタニカル(香りづけの素材)浸漬→蒸溜という日本酒、ウイスキー、ブランデー、ジンの要素を取り入れた独自の方法を編み出します。
地域に貢献したいという思いから生まれた商品もあります。地元・北本市の特産品であるトマトを使って「市民提案型ふるさと納税クラウドファンディング」における「北本有機クラフトスピリッツ(トマト)」をつくることにも挑戦し、完成させました。
アメリカ・ヨーロッパの有機認証に向けた挑戦
ノヴァが作った有機蒸溜酒(有機ジャパニーズドライスピリッツ)が、「TOKYO WHISKY&SPIRITS COMPETITION 2023 洋酒部門」で銀賞を受賞。ブッシュさんによると「すでに販売できる段階」ではあるものの、今のところ日本ではなく海外での販売を目指し、さらなる挑戦をしているところなのだとか。
「世界で販売するためには、蒸溜酒の香りづけに使う梅やあんずなどは、アメリカやヨーロッパの有機認証に合わせた形で栽培しなければなりません。日本の基準より厳しくて、例えば、栽培するには緩衝地帯が必要で日本の基準に直すと3反あると真ん中の1反しか使えないくらい厳しい基準です」
ノヴァではその厳しい有機認証をまもなく取得。販売に向けて、着々と準備を進めています。
ブッシュさんが考えるSDGsとは
検品時のロスを減らすために始めた蒸溜酒づくりですが、お酒を醸造する過程でも、かす(残渣)や廃液が出ます。ノヴァでは酒のかすは養豚場に買ってもらい、廃液はその中に含まれる微生物を活用して電気を生み出す会社に売り、ごみゼロ、環境への負荷ゼロを実現しています。
オーガニックの世界の課題に誠実に向き合い、解決してきたブッシュさん。業界では「みんなのお助けブッシュさん」と呼ばれ、ライバル企業からも相談を持ち掛けられることが多いそうです。
「持続可能な社会を築くためには仕組みづくりがとても大切です。例えば、人材が必要ならボランティアで集めるのではなく、きちんと労働対価を払える仕組みをつくる。誰かが中心になって動かすのではなく、中心人物がいなくなっても勝手に回っていく仕組み……。だからこそ、私は地域の農家や企業が競争するのではなくて、どのように共存していくかを各所が連携しながら情報共有することが大事だと考えています。それこそが私の考えるSDGsです」
ノヴァでは2024年夏頃から、本社の蒸溜施設で醸造・蒸溜を体験できるサービスを開始する予定です。「オリジナルのスピリッツづくりを通じ、当社が考えるSDGsの在り方を多くの方に知ってもらう機会としたいですね」と、笑顔でブッシュさんは語ります。
株式会社ノヴァ 公式ホームページ(外部サイトへのリンク)
ノヴァセレクト 個人向けオンラインショップ(外部サイトへのリンク)
まとめ
株式会社ノヴァでは、創業以来「健康で安全な食」の実現のため、「オーガニック=有機」にこだわってきました。2012年から社長を務めるブッシュさんは、それをさらに進め、“オーガニックだからしょうがない” というイメージの払拭に尽力しました。今では、ノヴァの有機ドライフルーツ・ナッツは、「オーガニックだから高品質でおいしい」と人気です。検品時に出るロスを減らしたいというブッシュさんの思いから、有機蒸溜酒づくりも順調に進んでいます。今年夏から始まるという醸造・蒸溜を体験できるサービスの開始が今から楽しみですね。
- 2024/05/29新規作成