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監修者プロフィール
株式会社地域デザインラボさいたま
日本酒はどうやってつくられるの?昔ながらの製法にこだわる権田酒造
米から日本酒が製造されることは知っていても、具体的な製造工程を知る機会はなかなかないのではないでしょうか。まず、酒造りの基本工程から見ていきましょう。
【精米と蒸米】玄米を精米して白米とし、それを洗い、一定量まで吸水させ、蒸して蒸米にします。
↓
【麹、酒母造り】蒸米に麹菌を繁殖させて米麹を造り、酵母を培養する酒母造りを行います。
↓
【もろみ造り・仕込み】タンクに酒母、麹、水、蒸米を入れて発酵させ、もろみをつくります。もろみ中では、糖化と発酵が並行して進む「並行複発酵」が起こっています。
↓
【しぼり・瓶詰め】熟成したもろみを搾って酒と酒粕(さけかす)に分けます。搾ったまま、それに加水したもの、あるいは濾過して瓶詰めにしたものをしぼりたて、あるいは生酒などと称し、それらを火入れ、といって熱殺菌を行ったものが通常商品となります。吟醸酒や純米酒、普通酒など、さまざまなタイプがあります。
今回の体験先となる権田酒造は、江戸時代末期の1850年に創業した歴史ある酒造会社です。創業以来、守り続けてきたのは手間暇を惜しまない製法です。とくに「しぼり」の作業は槽掛け(ふながけ)という酒袋に熟成したもろみを入れ、2~3日かけてゆっくり圧搾する昔ながらの製法で行っています。手間と時間はかかりますが、高品質な味わいを生み出すため、すべてのお酒を槽掛けで搾っています。
その他、酒造りに使う素材にもこだわりがあります。
使用している米は埼玉県独自の酒造好適米として育成された熊谷産の「さけ武蔵」をメインにし、酵母も熊谷の試験場で開発されたものを多く使っています。荒川と利根川に挟まれ伏流水が豊かでおいしいとされる熊谷の水も、権田酒造の日本酒を芳醇なものにしているのでしょう。
【体験会レポート】職人の指導のもと「もろみ造り」に挑戦!
![【体験会レポート】職人の指導のもと「もろみ造り」に挑戦!](/mikke/local/images/local_sake_0001_img02.png)
権田酒造では見学会、体験会などを不定期に行っています。2022年11月27日の酒造り体験には、埼玉りそな銀行の社員6名が参加しました。
ここからは、貴重な酒造り体験会の模様をレポートします。
酒造りの工程を学んでから体験スタート
現地に到着すると、すでに蔵では米を蒸している最中で、湯気がもうもうと立ち込めていました。酒造りの現場は活気に満ちています。
大正時代に建てられた母屋で、日本酒造りの流れについて、画像と動画を使った解説を受けたあと、いよいよ釜場や仕込み蔵などがある作業場へ入ります。神棚に手を合わせ、神聖な気持ちで作業の準備を行います。
この日、体験したのはもろみ造りの仕込みで、その中の「留添え」という工程です。仕込みでは酒母を小さなタンクから大きなタンクに入れ、水、麹(こうじ)、蒸米を加えてもろみをつくり糖化と発酵を促します。ただし一度に大量に米を投入すると酵母菌の増殖が間に合わなくなるため、初添え、仲添え、留添え、と三段階に分けて米を入れます。
大量の蒸米をほぐして冷ます
いよいよ作業の開始です。もうもうと湯気が立ち込める中、蒸米を冷ます作業を体験します。
蔵人が蒸米を放冷台に乗せたら、手で広げてほぐしていきます。
![大量の蒸米をほぐして冷ます1](/mikke/local/images/local_sake_0001_img03.png)
![大量の蒸米をほぐして冷ます2](/mikke/local/images/local_sake_0001_img04.png)
「この蒸米、家庭用のご飯に比べて硬くないですか?」と常務の権田拓弥さん。確かにポロポロとして、手のひらでつぶそうとしても跳ね返ってくるような弾力性があります。
![大量の蒸米をほぐして冷ます3](/mikke/local/images/local_sake_0001_img05.png)
冷めた蒸米を布で運ぶ作業も体験しました。粘り気の少ない蒸米はうっかりすると布からこぼれるため、2人1組で息を合わせなくてはいけません。そして、梯子を上り、一気にタンクに蒸米を投入します。
![大量の蒸米をほぐして冷ます3](/mikke/local/images/local_sake_0001_img06.png)
次にもろみを撹拌する方法も教えてもらいます。撹拌するときに使うのが櫂棒(かいぼう)と呼ばれるものですが、まだ粒が残る蒸米や氷が入った状態のもろみを混ぜるのは予想外に重くて一苦労です。しかし、うまく混ぜられると心地よい音を立てながら、きれいに均一に混ざっていくのが目でも分かります。
![大量の蒸米をほぐして冷ます4](/mikke/local/images/local_sake_0001_img07.png)
どの作業も単純に見えてコツが必要なうえ、かなりの重労働です。「私たちはこれを何時間でも続けるんですよ」と聞き、さらには高い足場も自在に動ける蔵元の姿を見て、参加者から「すごい!」と感嘆の声が漏れていました。
蔵の見学や試飲会のお楽しみも!
作業の合間には、麹を造る麹室や、熟成したもろみを搾るために使う槽(ふね)などの見学ができます。さらに、社長の権田清志さんからは日本酒の歴史など貴重なお話もうかがえました。
![蔵の見学や試飲会のお楽しみも!1](/mikke/local/images/local_sake_0001_img08.png)
最後は全員で、発酵が進んでいるタンクの中を覗かせてもらいました。アルコールと共に生成される二酸化炭素のガスがプクプクと泡立っているもろみの様子は、まさに生きていることが実感できます。
![蔵の見学や試飲会のお楽しみも!2](/mikke/local/images/local_sake_0001_img09.png)
参加者からは「酒造りがこんなに繊細な作業だとは知りませんでした」「こうやって丁寧につくっているからこそ、おいしいお酒ができあがるんですね」という声もあがっていました。
作業が終わると、この日は天気が良かったこともあり、庭にテーブルを出して試飲会が行われました。権田酒造の日本酒を少しずつ味わいます。フルーティーであったり、どっしりと濃厚なものであったり、味と香りの違いを堪能しました。
![蔵の見学や試飲会のお楽しみも!3](/mikke/local/images/local_sake_0001_img10.png)
この日、仕込みを手伝った日本酒は瓶に詰めて自宅へと送ってもらえるとのことで、後日にも楽しみが残る体験会となりました。
【酒造家インタビュー】埼玉の酒文化を広く知ってもらいたい!
![【酒造家インタビュー】埼玉の酒文化を広く知ってもらいたい!](/mikke/local/images/local_sake_0001_img11.png)
権田酒造の酒造りは、かつて冬場の農閑期に越後(新潟県)からやってくる越後杜氏が担っていましたが、現在では家族と地元採用の社員によって運営されています。
現在、常務を務める権田拓弥さんは、六代目蔵元の父・清志さん、母の幸子さん、七代目である兄の直仁さんとともに、一家で権田酒造を運営しています。拓弥さんに権田酒造のことや、埼玉県の日本酒業界についてうかがいました。
家族的な暖かさが権田酒造にはあります
――ご兄弟で権田酒造を継ごうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
「長男である兄は子どもの頃から跡を継ぐものと思っていたみたいですが、私が酒造りをやりたいと思うようになったのは高校時代ですね。父がよく家の座敷で地域の方たちと宴会をしていて、そのときに権田酒造の酒を飲んだ人たちがうまいといいながら楽しそうにしていたのを見て、自分も人を笑顔にする仕事をしたいと思ったのがきっかけです。うちには営業担当者がいなかったので、私はいったん外の会社で営業を学んだ後、家に戻って働くようになりました」
――酒造の仕事の楽しさを教えてください。
「うちは家族とベテランの造り手さんと、そして繁忙期にはパートさんが来てくれて酒造りをするのですが、みんなずっと一緒にいるから仲がいいんです。モノづくりをしている者同士ならではの絆があり、仕事が楽しいと感じます。お客様の反応が見られることもやりがいを感じられる点です。販売している店のほうへ常連さんが来て『おいしかったよ』なんて言ってもらえると格別のうれしさですよね。母が酒造りをしている私たちを動画でFacebookにアップしたときも『兄弟でがんばっているね』などの反応をもらって、そういう気軽なコミュニケーションができるのも小さな蔵ならではだと思います」
―― 一方、御苦労も多いことと思います。
「たいへんさは、やはり体力的には厳しいですね。朝6時30分頃から作業が始まって、忙しい時期は21時頃に作業が終わります。そこから、事務作業をする場合も多く、兄は夜中でも菌の状態を見るために1時間おきに起きる日もあります。それでも、おいしいお酒ができれば、疲れや苦しさも消えてしまいますね」
伝統と新しさを両方とも大切にしていきたいですね
――また、伝統の味を守るたいへんさもあるのではないでしょうか。
「権田酒造のお酒の特徴は、淡麗というよりは濃厚です。昔から地域で愛された味ですから、これからも変わらずにつくり続けたいと思っています。また一方で、とくに兄がいろいろアイデアを出して、濃厚かつフルーティーで、近年とくに好まれている『直実 吟醸 無濾過ささにごり』や、IoT技術を取り入れた商品も開発しています。権田酒造らしさを守りながらも、新しさも出していきたい。すべての工程を見直しながら、より丁寧に、そして新しいチャレンジも加えていく。たいへんですが、それが面白さでもあるんです」
埼玉県は全国でも有数の酒どころです
――ところで、埼玉県には30以上の酒蔵があり、出荷量も全国で4位だそうですね。
「そうなんです。埼玉県は実は昔から穀倉地帯で米がよくとれ、さらには荒川と利根川の2大水系があり、多くの川があったことからおいしい水もあり、酒造りには適した土地だったんです。埼玉県は人口が増え続けていたので積極的な外への展開が少なく、そのため、著名な蔵は多くないですが酒質の高さは全国有数です。都心から気軽に訪れることができる酒蔵が多いのも埼玉の強みなので、もっと知ってもらいたいと考えています」
――埼玉県のお酒の特徴とはどのようなものなのでしょうか。
「埼玉の酒は酒蔵によって千差万別です。淡麗なものもあれば、濃厚でどっしりしているものもあります。埼玉県酒造組合でも24酒造の銘酒を一合缶に入れて飲み比べができるようにした「埼玉地酒吞み比べセット2022」を販売したり、試飲会を行ったりしながら、それぞれの個性が楽しめる企画もしています。機会があればぜひ、試していただきたいです」
――今、海外でも日本酒が人気ですが、海外進出についてはお考えでしょうか。
「実はご縁があり、最近は海外でも権田酒造のお酒を置きたいとおっしゃっていただき、輸出も行っています。埼玉や日本の酒文化をアピールするのに、役に立っていけるといいですね」
今後も楽しい企画を考えていきたいと思います
――今回、酒造り体験を行いましたが、実施に至ったきっかけと今後の展望について教えてください。
「今回の企画は、埼玉りそな銀行の子会社である地域デザインラボさいたま(ラボたま)の方からお話をいただいたのがきっかけです。今までも地元の大学とのコラボや、ホームパーティ、利き酒会、蔵コンサート、落語会、熊谷の姉妹都市であるインバーカーギル市(ニュージーランド)の方を招いての見学会などを行ってきました。酒蔵は日本の文化発信地でありたいと思っていて、都心から約1時間半という地の利を生かしつつ、ご縁があれば今後もさまざまな企画に挑戦したいところです。一方で、酒蔵は衛生に細心の注意を払わなくてはいけないので、そこをご理解いただいたうえで、みなさんにとって楽しい企画を考えていきたいと思います」
まとめ
埼玉県は、全国4位の出荷量を誇る酒どころ。そんな埼玉県の魅力を再発見できる企画として、酒造り体験のレポートをお届けしました。体験先の権田酒造では、昔ながらの技法を使った「日本酒 直実」が製造されています。濃厚な味わいに加え、昔ながらの味わい・料理と寄り添う特徴を持った日本酒で、まろやかで深みのある味わいをした「直実 純米大吟醸」、力強くシャープな味わいの「直実 大辛純米無濾過生酒」、さわやかな味わいで人気の「直実 吟醸 無濾過ささにごり」などがあります。リキュールとしては寄居町産の南高梅を使った「はちみつ梅酒」も人気があります。
また、地域の交流の場として、酒造り体験のほか、日本の文化発信の地として、コンサートなどのイベントも行っています。「これからも埼玉の酒造りを盛り上げ、多くの人においしいお酒で笑顔になってもらいたい」という、常務・権田拓弥さんの言葉が印象的でした。
権田酒造サイト:https://www.gondasyuzou.com/
蔵元情報(権田酒造)
- 住所
-
埼玉県熊谷市三ヶ尻1491
- URL
- https://www.gondasyuzou.com/
- ※2023年4月時点での情報となり、最新の情報と異なることがあります
- 2023/04/05新規作成
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