国内初!官民一体となった特殊詐欺対策
埼玉県警察と埼玉りそな銀行が手を組む、特殊詐欺対策の最前線


「SNS上で見かけた有名人の広告をきっかけに大金を騙し取られた…」「警察官を名乗る男から”あなたの携帯電話が不正に利用されている”と嘘の話を持ちかけられて、気が付けば多額の送金を行っていた…」
当初は怪しいと思っていたのに、言葉巧みに騙されて、結果として何千万円も搾取されてしまうような特殊詐欺等が足元で急激に増加しています。そのような状況を何とか打開できないかと、埼玉県警察と埼玉りそな銀行が手を組み、全国で初めて警察が保有する不正利用口座データを活用したモニタリングスキームを構築しました。今回は、国内初の取組みとなる官民一体となった特殊詐欺対策とその舞台裏についてご紹介いたします。


INDEX
特殊詐欺の代表的な
手口とは
特殊詐欺とは、被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等を騙し取る犯罪をいい、親族等を騙り事件や事故の示談金名目や、警察官等を騙り捜査協力名目で現金を騙し取るオレオレ詐欺、金融機関等を騙り還付金の返還手続きを装ってATMを操作させ現金を騙し取る還付金詐欺が多く発生しています。
他にも、特殊詐欺ではありませんが、SNSを通じて投資話を持ちかけ現金等を騙し取るSNS型投資詐欺や、恋愛感情を抱かせて現金等を騙し取るSNS型ロマンス詐欺が急増しています。
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警察庁の統計データによると、特殊詐欺の発生状況は、2023年1月~12月の1年間で認知した件数は合計19,038件となり、その合計被害額は452億5,643万7,000円にものぼっています。中でも埼玉県は被害件数が全国5位の1,338件(30億9,219万円)もある厳重注意地域となっています。その手口は年々複雑化・巧妙化が進んでおり、被害者の方々は、「犯罪の手口についてはニュースなどで知っていたのに、自分がこんな詐欺に引っかかるとは思わなかった」「こんな結果になるとは予想していなかった」と深い後悔と驚きを隠せない方が多くいらっしゃいます。

参照元:警察庁WEBサイト(外部サイトへのリンク)
埼玉県警察と埼玉りそな銀行が手を組んで実現した国内初のスキーム
県内の特殊詐欺の被害額が過去最悪のペースで推移する中、埼玉県警察からの要請を受け、埼玉りそな銀行では、被害者目線で物事を考え、県内で安心・安全に暮らすことができる環境を整備するための検討プロジェクトを開始しました。急増する特殊詐欺等の被害拡大抑止や未然防止を目的に何かできることはないか、日々の検討を重ねた結果、警察が保有するオレオレ詐欺や還付金詐欺といった特殊詐欺等に使われた「不正利用口座」の情報を、県警が埼玉県内に本店を置く金融機関※と共有する国内初の枠組みが実現しました。
- ※埼玉りそな銀行、武蔵野銀行、埼玉縣信用金庫、飯能信用金庫、川口信用金庫、青木信用金庫、埼玉信用組合、熊谷商工信用組合、埼玉県医師信用組合、JAバンク埼玉(県内15JA・県信連)

具体的には、被害申告を受理した埼玉県警察は、翌日(金融機関の営業日)に本協定を締結している金融機関へ「不正利用口座」の口座番号などを共有します。金融機関はその口座を監視(モニタリング)することで、ほかにも被害が懸念される人がいないかを調査し、特殊詐欺等が疑われる取引等を検知した場合は埼玉県警察に連携します。連携を受けた埼玉県警察は特殊詐欺等の被害が懸念される方への接触を試み、被害拡大抑止を図るという仕組みです。2024年10月に県警本部(さいたま市)で結ばれた締結式には、埼玉りそな銀行、武蔵野銀行、県内の4信金など9機関のトップらが参加しました。

県警本部(さいたま市)にて行われた締結式の様子(2024年10月21日)
協定締結に関わった方へのインタビュー①埼玉県警察本部 島野裕介さん
埼玉県警察本部刑事部組織犯罪対策局 組織犯罪対策第三課課長補佐 島野裕介さん からお話をお伺いしました。

島野裕介さん
この協定を締結するに至った背景や動機について教えてください。
2024年に入り、特殊詐欺等の被害額が増加しているほか、SNSを利用した投資詐欺やロマンス詐欺が社会問題となり、早期に対策を講じる必要がありました。
特に投資詐欺は被害者自身が騙されていることに気づきにくく、警察への通報時には被害額が多額になっていることもあり、早めの気付きには金融機関のモニタリングによる協力が不可欠でした。また、これらの詐欺が増加している背景として、SNS等を通じてアルバイト感覚で口座が売買されている状況があり、短期間に複数の口座を作成する者の排除が必要であったことから、今回、埼玉りそな銀行をはじめとする県内の金融機関と協定を締結するに至りました。
協定締結に向けて、特に苦労した点や課題は何でしたか?
このスキームの内容を各金融機関にご理解いただくというところです。最初は、新たなシステム構築など何か負担を求められるのではないかと警戒されていましたが、警察の情報提供を元にできる範囲で協力してもらうということ、警察との担当窓口の設置による連携の効果、金融機関同士の横のつながりができることによるメリット、協定締結による対外的な宣伝効果などを説明しご理解いただきました。このあたりは、捜査員としての取調べ技術が活かされたと思っています。
埼玉りそな銀行との連携で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
埼玉りそな銀行が県内金融機関のリーダー的存在と実感したことです。各金融機関を回る中で、埼玉りそなの動きを多くの金融機関が気にしており、今回のスキームが「埼玉りそな製」であることの信頼感は大きかったです。各金融機関の説明でも「埼玉りそなが・・」を多用させていただきました。
このスキームが実現することで、どのような効果が期待できますか?
さらなる被害防止はもちろんですが、警察と金融機関の連携、金融機関同士の連携による「オール埼玉」の力はあらゆる面で活用できると思います。現在、国内のみならず海外の犯罪組織から日本の資産が狙われている現状において、警察と金融機関の連携は必須であり、この仕組みが全国に波及することで大きな効果が生み出せると感じています。
被害者目線で考えることの重要性について、どのように感じていますか?
騙されたことにより、財産を奪われた上に家族から責められ、つらい老後を過ごす方も少なくないと聞いています。このような方を一人でも減らすため、捜査部門であっても、犯人を捕まえることだけが目的ではなく、それにより被害を起こさないという気持ちが重要だと考えています。
協定締結後、実際にどのような変化や成果が見られましたか?
締結に向けて協議を重ねる中で、信頼関係が生まれ多くの情報が寄せられるようになったことや、各金融機関の意識が高まり、被害の防止件数も増加していることが一つの成果だと思っています。
県民の皆さまに対して、特に伝えたいメッセージはありますか?
被害にあわないようにしてもらいたいということです。もし被害にあってしまっても、金融機関と協力してできるだけ早く気づき、犯人を捕まえられるよう努力してまいりますが、被害にあうことなく安心して暮らしていただけることが何よりです。
県警察では、留守番電話設定や国際電話利用休止の申込促進など、電話に出ない対策を推進しています。見知らぬ人に個人情報を伝えることは詐欺や強盗にあうリスクを高めます。不審に思うことがあれば、ぜひ警察に相談してください。
今後の展望や、さらに強化したい取り組みについて教えてください。
このスキームを全国に拡大していきたいと思います。すでに、他県から問い合わせを受けており、積極的に売り込んでいきたいと思っています。また、金融機関の担当者の意見も聞きながら、引き続きよりよい対策を推進していければと思います。
この取り組みを通じて、警察としての社会的使命をどのように感じていますか?
財産の保護は警察に与えられた使命でありますが、それは警察だけで成しえるものではなく、同じ志を持つ金融機関と連携し、官民一体となって取り組んでいくことが重要だと考えます。県警察では引き続き県民の皆様の安心・安全の確保に向けて全力を尽くしてまいります。
個人的な視点で、このプロジェクトに関わることで得た学びや成長について教えてください。
捜査部門が長く、このような協定の締結は初めての経験でした。また、初めてでありながら9つの金融機関の代表者を巻き込む大きなプロジェクトであり、かなりのプレッシャーを感じながらの作業でしたが、埼玉りそな銀行をはじめとする金融機関の皆様のご協力を得て無事に協定を締結できたことは貴重な経験でした。このスキームについても、警察では考えつかないものであり、金融機関の知識と経験が不可欠であったと思います。そこは、他分野との連携の重要性を強く感じました。また、締結式の様子も多数報道され、特殊詐欺等の根絶に対する期待を感じたことで、決意を新たにしたところです。これからも県民の皆様の安心・安全の確保に全力を尽くしてまいります。
協定締結に関わった方へのインタビュー②埼玉りそな銀行 豊田智章さん
次に、埼玉りそな銀行コンプライアンス統括部 担当マネージャー 豊田智章さんにお話をお伺いしました。

豊田智章さん
この協定を締結するに至った背景や動機について教えてください。
犯罪グループによるさまざまな特殊詐欺等が拡大している状況下で、個別の金融機関の対応だけでは限界を感じていました。従来から、埼玉県警察と連携を図ってきたものの、犯罪抑止に向けた対応力の底上げの観点で、有効な仕組みを構築する必要があると考えていましたので、本協定の枠組みを利用して実効的かつ要所を押さえた対応を実施したいという思いから埼玉県警察との協議に入りました。
協定締結に向けて、特に苦労した点や課題は何でしたか?
警察との協力態勢を強化することで、今までにない先進的なスキームを作り上げることができると感じていましたが、初期段階では埼玉県警察が捜査情報をどこまで開示してくれるかが分からず、未知の世界でした。しかしながら、根底には、「お客さまを守りたい」という当社の思いと、「埼玉県内で特殊詐欺等を抑止したい」という埼玉県警察の本気度が流れていたこともあり、比較的早い段階でお互いの距離感を縮めることができ、前向きで多面的な議論を重ねることができました。
埼玉県警察との連携で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
特殊詐欺等の被害防止対策は、非競争分野であり、県内全域における詐欺抑止を高いレベルで遂行するためには銀行間の垣根を超えた連携が不可欠です。埼玉県警察が保有する不正利用口座データを活用した県内金融機関でのモニタリング等の仕組みについては、当社主導で練り上げ、埼玉県警察との間である程度かためた後、いかに県内の銀行に協力要請をするかが一つの山場でした。そこは島野さんに県内金融機関をまわって横断的に調整をしていただいたのですが、私の想像をはるかに超えたスピード感で各行との合意に至り、「さすが警察の方はフットワークが軽い!」と妙に感動してしまいました。
このスキームが実現することで、どのような効果が期待できますか?
埼玉県警察が保有する不正利用口座データを活用した金融機関でのモニタリングは、県内に本社を置く9行およびJAバンク埼玉(県内15JA・県信連)が共同で行う大規模かつ先進的な取り組みです。これらの金融機関での県内預金シェアは8割近くを占めるため、いち早く詐欺事案の予兆を捉えて、より多くの被害防止につなげられると考えています。
被害者目線で考えることの重要性について、どのように感じていますか?
デジタル化の加速やライフスタイルの多様化等、価値観の変化が社会構造はもとより、お客さまの金融行動にも大きな影響を与え始めています。それらの変化は新しい犯罪被害リスクも連れてきますので、手口の潮流を的確にとらえ、あくまでも被害者目線で「なぜ騙されてしまったのか」という本質的な要因を探ることを意識して日々の業務にあたっていくことが大切だと感じています。
今後の展望や、さらに強化したい取り組みについて教えてください。
本協定に基づいて、当社は埼玉県警察と中長期的な協力態勢の強化を実現していきます。シニア世代向け金融犯罪被害防止セミナーの共同開催・最新の詐欺手口の相互連携・警察官による当社従業員への実践的な研修を通じた窓口対応力の底上げ等、巧妙化する特殊詐欺等の抑制に向け、あらゆる機会を通じて対策を講じていきたいと考えています。また、警察だけでなく、根にある志が同じ県内金融機関とともに、新しい化学反応を起こしながら地域社会に貢献してまいります。
この取り組みを通じて、銀行としての役割をどのように感じていますか?
ここ数年間で、特殊詐欺等の犯罪手口は複雑化・巧妙化がさらに進んでいます。それに伴い、金融機関の被害防止に対する地域社会からの要請はますます高まりを見せており、我々、埼玉りそな銀行としても県内のお客さまを守り続けることが、社会的使命として不可欠であると認識しています。
個人的な視点で、このプロジェクトに関わることについて教えてください。
私が現在の業務にあたり始めたのは今年4月からであり、それまでは全く別の業務を行っていました。現在のポジションに着任してから約半年間でこのような大きなプロジェクトを主導できる立場で仕事をすることができ、あらゆる面で支えてくださった職場の上司・同僚たちには感謝の気持ちでいっぱいです。ただし、この協定締結は決してゴールではなく、あくまでも新しい扉を開けるためのスタートラインに立ったに過ぎません。これからも、「埼玉県の皆さまに信頼され、地元埼玉とともに発展する銀行」を目指して、地域の皆さまが安心・安全に暮らせる環境の実現を金融犯罪抑止の側面から支えていきたいと思っています。
犯罪被害にあわないために今日からできる具体的な対策は?
詐欺の犯人は相手を騙すための電話を重ねており、「注意する」だけでは対抗できません。
今回インタビューしたお二人に今日からできる具体的な対策や対処法についてもお伺いしました。
【今やってほしい・知ってほしい対策】
- 知らない番号からの電話は出ない!
- 番号非通知でかけてくる犯人からの電話をブロック!
固定電話の番号表示・非通知拒否サービス(外部サイトへのリンク)
- 国際電話番号(+1や+44などから始まる番号)でかけてくる犯人からの電話をブロック!
外国からの電話の利用休止(外部サイトへのリンク)
- 「ウイルス感染・修理が必要」というウソの表示は、慌てず断固無視!
「サポート名目の詐欺」対策(外部サイトへのリンク)
- 防犯機能付き電話の導入
- 自宅の固定電話にも「防犯」機能を!
防犯機能付き電話の導入(外部サイトへのリンク)
- ※上記は警察庁HP(外部サイトへのリンク)を参考に作成
参考コラム:犯罪被害にあわないために(お客さま側での予防策)|金融犯罪にご注意ください|りそなホールディングス (resona-gr.co.jp)
まとめ
特殊詐欺等の対策を十分に講じていたとしても、被害にあう可能性はゼロにはなりません。決して「自分だけは大丈夫」と過信せずに、もし不審なSNSや電話がかかってきた場合は、早い段階で家族や信頼できる知人、警察等に相談することが大切です。
埼玉県警察と埼玉りそな銀行が手を組んで実現したこの国内初のスキームは、県民の皆さまの安心・安全を守るための大きな一歩です。警察と金融機関が連携し、「オール埼玉」の力を総動員して特殊詐欺等の被害を未然に防ぐ取り組みは、今後もさらに強化されていくことでしょう。
県民の皆さまには、引き続き警戒心を持ち、怪しいと思ったらすぐに相談することを心がけていただきたいと思います。私たち一人ひとりが注意を払うことで、詐欺被害を減らし、「安心して暮らせる埼玉」を作り上げていきましょう。
- 2024/12/11新規作成


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