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お笑い芸人になりたくて国家資格を取る!?
─税理士を目指したきっかけはあったんですか?
実は初めから税理士を目指していた訳ではなく、元々は芸人になりたいと思っていました。中学3年生の時「お笑いを仕事にしている人は特別な才能とアート性がある」と感じ、芸人を志すようになりました。高校生になり、ネタ作りや色んな調査を進める中でインテリな芸風で天下を取る芸人になりたくて、そのバックボーンとして国家資格を保有する芸人がいいと思い、難しくて知名度のある資格を考えたところ、たまたま「税理士がいいかな」と。
そんな思いで大学へは行かずに税理士資格を取得し新たな芸人の道も考えましたが、様々な方との出会いの中で自分には笑いの才能はないと痛感し、残念ですが諦めました。そこでモヤモヤした気持ちを抱えつつも税理士のキャリアを積み重ねる事になります。
税理士になり20代で独立を決意
─芸人を目指していたとは意外です。その後税理士として独立されたんですね。
3~4年ほど税理士の業務経験を積む中で、この仕事のやりがいや奥深さも分かりました。ただ、お笑いの夢を諦めた経緯もあり、税理士として自分にしかできないことをしたいと思い、自分のスタイルを確立するために29歳で独立開業しました。税理士は平均年齢が60代後半で超高齢化している業界であり、20代の独立開業は当時かなり珍しかったようです。実は、20代後半の独立開業前から将来的には税理士と地域活性化の事業を掛け合わせていきたいと思っていましたが、それが現実的に見えてきたのは開業して5年後位ですね。
まちづくりとファイナンスを掛け合わせた新しい取組み
きっかけは故郷である長野県駒ヶ根市での原体験
―なぜ、税理士に地域活性化の事業を掛け合わせようと思ったのですか?
税理士と地方活性化を掛け合わせた事業をしたいと思ったのは、故郷である長野県駒ヶ根市が30年近くかけて少しずつ衰退していった様子を見た原体験が大きいです。自分の親族は今でもほとんど駒ヶ根に住んでいて仲が良いですし、自分にとって心地よいコミュニティや暮らしとは何か?ということを教えてくれたまちです。駒ヶ根はとても好きな地域ですが30年ほどの時間を経て、高齢化の波や中心市街地などにおける事業承継の担い手不足、自治体財政の悪化など、地方の中山間地域における典型的な衰退ケースに陥っているとも感じました。そのとき、「まちはなぜ衰退したり、しなかったりするのか」ということに関心を持つようになり、また税理士の知見を活かして地域が元気になる支援が何かしらできるのではないかという思いが湧いてきました。
そのためには、税理士として一定の経験値や実績も必要だったと思いますし、時間をかけて経営や財務の面から具体的にまちづくり支援に関与できる事業の構想ができたため、6年ほど前に「らしく株式会社」を創業しました。
自分らしくいられるからこそ、まちの課題に向き合える
―「らしく株式会社」の社名の由来はなんですか?
社名の由来は「税理士以外に、人生を通して本当に自分らしくいられる事をとことんやり続けたい」と強く思ったことがきっかけです。
「自分らしい」って一体どんなことなのか深く考えたとき、駒ヶ根での原体験から気づきを得て、自分の思いが宿った地域のまちづくりに関わっていきたいんだなと思いました。その取組みの中に、税理士の知見を社会に還元して「日本で一人しかいない変人税理士」になっていくことがやっぱり自分らしいなと思いました。近い未来に直面する壮大な課題を先取りして向き合いつつも、どこか楽しく自分らしくいられることを大切にしたいと感じたため「らしく株式会社」という社名にしました。
大小様々なプレイヤーの間に立った支援をしたい
―「まちづくり × ファイナンス」とはどういった取組みなのでしょうか?
税理士の仕事は、相続・事業承継・創業支援がメインになります。
まちづくりの仕事(らしく社)は、地域経済循環の見える化サービス「みんなのまち財」、遊休不動産の利活用支援、地域密着事業の経営伴走支援などです。まちづくりといっても抽象的で広いですし、大手企業から個人まで様々なプレイヤーがいて予算感もバラバラです。予算の規模感が違うプレイヤー同士で対話が成り立たず、間に立てるプレイヤーが少ないのが現状です。らしく社はその間に立ち、経済的に自立・持続できるまちづくりの支援をしたいと考えています。
具体的には、税理士の各業務に地域活性化の要素を融合しています。例えば相続業務のうち相続対策が必要な地主さんで地元愛が強い方であれば、保有する空き家を売却ありきで考えるのではなく、地域密着事業をしている経営者や社会的な取組みをしているNPO法人などをマッチングして空き家の利活用を提案しています。相続対策を進めながら社会的な事業を新たに生み出すなど、地域に拓いた形の利活用も同時に構想します。
まち全体のお金の流れを把握する「みんなのまち財」
―様々な取組みをされていますが、その中でも特に力を入れて取り組んでいるものはなんですか?
「みんなのまち財」という地域経済循環の見える化と改善支援のサービスです。これはまち全体のお金の流れを色んな統計資料や現地視察、インタビュー調査などを織り交ぜ、1つのまちの実際のお金の流れ(経済循環)を把握するというものです。約2年前から始めていまして、さいたま市の浦和駅周辺や故郷である長野県駒ヶ根市のうち西部エリアの地域経済循環の分析試算をしてきました。
―「みんなのまち財」について詳しく教えてください。
従来からのまちづくりに関する地域経済循環の概算はいくつかありますが、都道府県ごとに公表されている産業統計資料などを用いたものが多く、地域経済の概要程度はつかめるものの、実際に地域全体のお金がどう流れているかの実態把握はほぼできていません。なぜ実態把握できないかというと、統計資料は官公庁が個別にそれぞれ対応し、縦割り構造になっていてこれを横断的に把握して全体感を示してくれる仕組みがないからです。
「みんなのまち財」は、対象エリアの地域経済が何を軸に動いているかという点に着目し、諸々の統計資料の詳細をそれぞれ把握し、現地視察やインタビュー調査も加味してこれらを横断的に分析試算(一部は仮説検証)することで、対象エリアの地域経済の実態を把握することができます。地域のとあるエリアにおける実際のお金の流れがおおよそ分かるので、地域外に資金がどの程度流出してしまっているか、その内訳は何か?という点も把握できます。
さいたま市のようなベッドタウンが今後数十年という長いスパンで衰退せずに存続するためには、端的にいえば地域外への流出を減らし、地域内での消費を増やすことが重要です。みんなのまち財は、そういったまちづくりの長期プランを考える際の「羅針盤」として色んな方のお役に立てると嬉しく思っています。
さいたま市で開業できたご縁に感謝
さいたま市の最大の魅力は「人材」
ーさいたま市のいいところはどんなところですか?
さいたま市の1番の強みは「素晴らしい人材が揃っているところ」だと思います。大きな組織全体が変わるのは容易ではありませんが、熱量と能力のある1人1人の草の根的な取組みを少しずつ結集していけば時間はかかるものの地域を魅力的にできる可能性は十分にあると感じています。
あとは、「当たり前によそ者を受け入れてくれる」のがいいところです。私自身、さいたま市に住み出して10年経っていませんが、今の古民家(青山茶舗)のオーナーさんとご縁をいただき、信頼していただいて国の登録有形文化財に認定されている歴史的な建造物にオフィス入居させて頂いているのは本当に有難い事だと思っています。
難しい問題だからこそ課題と向き合いたい
―逆にもっと良くなると思うところはありますか?
さいたま市はいいところがたくさんありますが、今後ベッドタウンの構造的な課題がどんどん表面化されてくると思います。それに対する対策や解決の道筋がほぼ示されていないことは大きな問題だと思っています。ベッドタウンでは、地域の魅力として価値のあったものが再開発・マンション建設を通じて壊され、まちのオリジナリティはどんどんなくなっています。一度破壊した後に、再度まちの魅力をゼロから創っていくことは非常に難しいことです。
「まちづくり」というと地方の人口減少が進む小規模な地域がフォーカスされる事が多いですが、都市近郊のベッドタウンが抱えている構造的な課題こそ住民の危機意識も薄く、いわゆる「ゆでガエル現象」が起きて課題が表面化したときは時すでに遅し、となる事を個人的に危惧しています。だからこそ、人口増と税収増がストップし下降カーブが加速する前に、表面的ではなく民間と行政が双方をきちんと理解した上での公民連携を進める必要があるように思います。
地域経済の正常循環に貢献していきたい
―今後の目標について教えてください。
こうした課題を解決していくためにも、「みんなのまち財」のサービスを少しずつ色んな地域に広めていきたいと思っています。各地域でまちづくりをしている企業や自治体等が実施している個別プロジェクトに結びつけて、実数値での効果測定や伴走支援をしていきたいです。
実数値として効果測定することは、まちづくり予算の有効性を検証できたり、自治体や銀行などとの「実りのある対話」を生み出すきっかけにもなり、経済的に自立・持続できるまちづくりを実現する可能性を高めることに繋がります。税理士やまちづくりの知見を、各地域で生じている諸課題を改善するために還元し、地域経済が少しでも正常循環できるよう「まち全体のお金のデザイン」に関与していきたいです。
執筆者プロフィール
(株)地域デザインラボさいたま 八木奈央
2017年埼玉りそな銀行小川支店入行。運用商品等の営業を経験した後、地域課題解決事業を行う「地域デザインラボさいたま(愛称:ラボたま)」に出向。現在は移住促進・空き家課題解決のため、様々な「まちびと」の活動を発信している。
詳しくは→「埼玉まちびと 四角いマガジン」
編集後記
まず、お笑い芸人になるために、税理士の資格を取ったという話から「変わった税理士」の雰囲気を感じました(笑)。ベットタウンは昔の良き町並みを壊して開発したまちなのに、今になってまちの個性を創ろうなんて相当難しいと話されていました。一度壊したものは、もう二度と元には戻らない。そのことを念頭において、まちの未来を考えて行くべきだと感じました。余談ですが、堀さんの事務所がある青山茶舗さんに着いて、2階に事務所が見えているものの、どこを探しても入口が見つからず…。ウロウロしていたところ堀さんが迎えに来てくださいました。建物裏の奥の方に入口があり見つけにくいので、行かれる際はご注意を(笑)
1階の「青山茶舗」店内。裏には蔵を改装した日本茶喫茶・ギャラリー楽風(らふ)があります。
さいたま市ってどんなところ?
- 場所:埼玉県南西部(人口:134万人)
- アクセス:市内には8つの路線に30個以上の駅があります。大宮駅からは新幹線で東北~北陸まで行くことができます。
- 観光スポット:大型ショッピング施設が充実しているだけでなく、鉄道博物館、大型スタジアム、運動公園などもあります。自然豊かで静かな場所も多く、「調(つき)神社」という2023年の干支である兎を祀った神社があります。
さいたま市の堀さんおすすめグルメ
- カジュアル和食と地酒「しおさか」
- コメント:魚をメインとした和風創作のお店で日本各地の地酒(日本酒)が楽しめます。おすすめメニューは「ブリ大根」(冬季限定)です。柔らかく煮込まれた大根と脂の乗ったブリが最高で、冬に食べるのが特におすすめです!
- 店舗情報:埼玉県さいたま市浦和区常盤6-2-14 ときわビル1階Google MAP
- 定休日:日曜日・祝祭日 営業時間: 11:30~14:00 17:00~22:00
- 2023/04/05新規作成