プロサッカー選手として活躍しながら社会貢献活動。
Jリーガー畑尾大翔さんの「恩返し」「恩送り」とは?


サッカーJ3ツエーゲン金沢に所属する畑尾大翔選手は、さいたま市で障がい者の自立支援のために就労継続支援B型事業所を運営しています。また、小児科病棟や特別支援学校などを訪問する活動も長く続けています。
プロスポーツ選手と障がい者の自立支援。二足の草鞋を履き続ける背景には、大学時代の闘病経験があったそうです。畑尾選手の社会貢献活動への思いや、これからのビジョンについて伺いました。


INDEX
病を克服してJリーガーに。
闘病で多くの人に助けられた経験から「今度は自分が支える側に」

父と兄から影響を受け、物心つく前からボールを蹴っていたという畑尾選手。子どもの頃からプロサッカー選手になる夢を抱き、努力を重ねてきました。
しかし、大学時代に『慢性肺血栓塞栓症』という病に襲われます。肺の血管に血の塊が詰まる病気で、難病指定の一歩手前という深刻な状態でした。ドクターストップによりプレーができなくなった畑尾選手は、大学を留年して手術を受けることを決意。その後、リハビリを経て、ヴァンフォーレ甲府に入団し念願のプロ入りを果たします。
「夢をかなえられたのは、闘病中に多くの人に支えられたお陰です」(畑尾選手/以下同)。再びピッチに立てるのか、プロサッカー選手になれるのか……不安に押しつぶされそうな中、家族や友人、監督、コーチ、育成時代から応援してくれているファンやサポーターの協力や励ましに支えられたといいます。
「ほかの選手が経験していない闘病経験は、自分の強みです。ピッチ上で結果を出すのはもちろん、何らかの形で恩返しをできないかと考えました」。
子ども好きなことや、ヴァンフォーレ甲府時代に特別支援学校を訪れた経験などから、大宮アルディージャに所属している2020年に『一般社団法人PiiS Fly(ピースフライ)』を立ち上げ、病院や特別支援学校、放課後等デイサービスへの訪問をスタートします。「PiiS=Possibility is infinite by Sportsの略で、スポーツの力で可能性は無限大という意味です」。
畑尾選手は活動の中で、ある障がい者の母親の言葉に衝撃を受けます。「障がいを持つ子は18歳を過ぎると社会的な居場所がなくなると聞きました。特別支援学校を卒業後、行き場が極端に狭まってしまうというのです。厳しい現実を知らなかった自分を恥じたとともに、訪問して終わりではなく、継続的なサポートをしたいという思いが強くなりました」。
障がい者の継続的なサポートを通じて、自立への道をともに目指す

思い立ったら、すぐに行動するのが畑尾選手の真骨頂。「まずは多くの人に会い、専門家などからアドバイスをもらいました」。そんな中、障害者就労継続支援B型事業所で働く障がい者の平均賃金は月額約1万6000円、時給に換算すると約200円という事実を知り、ショックを受けたそうです。
障がい者に自立できるだけの経験や技術を身に付けてもらい、安定した収入を得られるようになってほしい。そのためには就労支援が一番だと考えた畑尾選手は、『障害者就労継続支援B型事業所』の開所を目指します。
現役のプロサッカー選手として活動しながら、畑違いの分野で新事業をスタートさせるのは大変なことです。どこからそのパワーが生まれるのでしょうか?
「0→1が好きで、新しいものを作り出すことにやりがいを感じるんです。そして、思いついたらすぐやらないと気が済まない。昔からそういう性分なんですよね」。小学生の頃、所属のクラブが初めて都大会に出場することになり、校長と担任に試合を見に来てほしいと手紙を書いたエピソードも語ってくれました。「当日、校長先生と担任の先生が、本当に応援に来てくれました! 今思うと、ちょっと変わった小学生ですよね(笑)」。子どもの頃からその行動力は本物だったようです。
『障害者就労継続支援B型事業所』の開所に向け、資金面ではクラウドファウンディングで広く支援を募りました。目標金額は100万円。1カ月で、目標をはるかに上回る524万6038円の支援が集まりました。畑尾選手の熱い想いに賛同する人が数多くいた証といえるでしょう。
畑尾選手は2022年『株式会社 PiiS Road』を設立し、『障害者就労継続支援B型事業所PiiS Plaza さいたま』を開所。一般企業への就職が難しい、発達障害や知的障害、精神障害、難病を持つ方の活躍の場を提供し、自立を目指す支援をしています。
事業所での作業には、養蜂、コーヒー豆の選別、古本再生などがあります。「利用者の皆さんの"自分らしさ" や"できる"にフォーカスし、利用者の特性に合った活動を行っています」と取締役の加藤幸蔵さん。加藤さんは小学校時代、ジュニアチームで畑尾選手と一緒にサッカーをしていた縁で取締役に就任しました。
自ら「人に恵まれている」と語る畑尾選手。事業所の所長、田口健さんは小学校時代のサッカーチームの友人であり、養蜂やコーヒー豆の選別事業も関係者の紹介から始まりました。「私たちは『畑尾の輪』と呼んでいるんです。人のつながりがすべてですね」(加藤さん)。

養蜂は、見沼区の農家の敷地を借りてスタート。蜂に負荷をかけない丁寧な作業や、膨大な数の蜂の中から一匹の女王蜂を探すなど根気強さが必要ですが、そこで利用者の特性が活きるそうです。「養蜂作業で外に出て体を動かすようになり、よく眠れるようになった」という利用者の声もあるとか。また、蜂蜜は消費期限が長く、廃棄部分がほとんど出ない、お菓子や化粧品に活用できるなど多くのメリットもあります。
生産した蜂蜜は、畑尾選手自ら『神沼(みぬま)の琥珀』というネーミングを考え、パッケージデザインにも携わりました。『神沼の琥珀』は、さいたま市のふるさと納税返礼品として採用され、区役所やJリーグの試合でも販売されています。また、道の駅でのコラボ商品(ソフトクリームの蜂蜜がけ)などにも発展しているそうです。
【解説】就労継続支援A型とB型の違いとは?
いずれも障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つで、一般企業などで働くことが困難な人が、障害や体調に合わせて自分のペースで働く準備をしたり、就労訓練を行ったりできる場所です。
就労継続支援A型は、一般企業などでの就労は難しいものの、雇用契約に基づいて働ける人が、事業所と雇用契約を結んだ上で働けるサービスです。一方、就労継続支援B型は雇用契約を結ばずに、障害や体調に合わせて自分のペースで利用できるサービスとなっています。
「恩返し」から「恩送り」へ。これからも活動の幅は広がり続ける
『PiiS Plaza さいたま』の活動の幅は広がりつつあり、Jリーグのクラブパートナー企業からの業務委託もあるそうです。その一例がゲームフラッグの製作(採寸、裁断、アイロンがけ、ミシンがけ)。製作に使用するミシンやアイロンはパートナー企業からの寄贈品です。
就労継続支援B型事業所から、一般就労(会社と労働契約を結び、労働者として勤務する働き方)への移行はまだハードルが高いという現状もあるそうです。だからこそ、入所中からその先を見据えたライフプランニングや、卒業後の継続的なサポートを行っているといいます。「今後は、就労意欲の高い利用者に向けて、一般就労との間をつなぐような、ステップアップのための会社をつくりたいですね。また、今はさいたま市のみですが、ゆくゆくは自らが所属したチームのある地域にも事業所を開設したいと考えています」。
現状維持は衰退と考え、これからも新しいチャレンジを重ねていきたいと語る畑尾選手。「社会貢献活動は、闘病を支えてもらったことへの『恩返し』のつもりで始めたこと。そして、『PiiS Plaza さいたま』の利用者の自立した将来につながる支援が、別の誰かへの『恩送り』になると思っています」。
まとめ
支えてくれる人がいたから、闘病生活を乗り越えてプロサッカー選手の夢をかなえられたという畑尾選手。その経験は自分の強みであり、それを活かして今後も障がいを持つ人や病気の子どもたちの成長に寄与していきたいと話してくれました。
プロスポーツという厳しい世界に身を置きながら、事業を営むのは並大抵のことではありません。しかし、チャレンジを続けるのは刺激的だと語る畑尾選手。Jリーガーとの二足の草鞋(わらじ)を、生き生きと楽しんでいるようです。
畑尾選手の活動を応援したい方はこちら!
美味しいコーヒーやさいたま市で採れた蜂蜜が買える「PiiS Roadオンラインストア」(外部サイトへのリンク)
PiiS Road/PiiS Plaza さいたま(外部サイトへのリンク)
PiiS Fly(外部サイトへのリンク)
- 2024/06/26新規作成


埼玉のあれこれ



埼玉県警察と埼玉りそな銀行が手を組む、特殊詐欺対策の最前線 2024.12.11

~武州の藍染め技法を色濃く受け継いできた野川染織工業株式会社(羽生市)の取り組み 2024.12.11







































